口腔がん(腫瘍・嚢胞)

【1】はじめに

はじめに

口腔腫瘍は、組織や細胞が生体内の制御に反して自律的に過剰に増殖することによってできる組織塊のことをいいます。腫瘍は良性のものと悪性のものに大きく分かれています。悪性腫瘍(口腔がん)とは、何らかの原因によって異常な細胞が無秩序に増え続けてしまうことで周りの組織や臓器に入り込むように広がって発育していき(浸潤)、からだの離れた場所に転移をきたします。増殖スピードが比較的早いのが特徴です。一方、良性腫瘍は増殖スピードが遅く、浸潤しないため膨張性に増殖し、転移はしません。

近年、口腔がんの罹患率が増え、それによる死亡者数も著しく増加傾向にあります。そこで渋谷の歯医者「渋谷青山デンタルクリニック」では、長年口腔外科に従事してきた経験を活かし、大学病院や総合病院と同等の口腔がん検査体制を導入しました。従来の歯科医院にはない充実した検査体制で病変の早期発見が可能となります。様々な疾患を「みた」「触れた」トレーニングを積んできたからこそできることだと考えております。

    当院の口腔がん検査体制

  • ①お口の中の細菌検査
  • ②病変から採取された細胞を採取し観察する細胞診
  • ③疑わしい病変の一部を切り取って菌や腫瘍の存在を詳しく調べて病気の診断を行う生検
  • ④血液検査

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※明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、すぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます。

ここでは、臨床でよく遭遇する代表的な腫瘍性疾患と嚢胞(のうほう:からだの中に生じる病的な袋状のもの)をご紹介します。

【2】歯の組織に由来する
良性腫瘍(歯原性腫瘍)

エナメル上皮腫(ameloblastoma)

  • エナメル上皮腫(ameloblastoma)
  • エナメル上皮腫(ameloblastoma)

エナメル上皮腫は、顎骨に発生する最も代表的な歯原性腫瘍です。痛みはなく、顎骨が膨張、変形していき大きくなると顔面非対称となります。歯の移動が起こる場合もあります。

X線画像検査で発見されることが多く、単房型(50%)、多房型、蜂巣型(40%)、混合型(10%)に分別され、病変の境界ははっきりしています(境界明瞭)。単房型は10~30歳代の若年層に多く、下顎枝や大臼歯部によくみられます。多房型は全年齢層にわたりみられ、前歯部から臼歯部によく認めます。性差は、3:2で男性に多いです。また腫瘍近傍の歯根の外部吸収が多くみられたり、埋伏歯を認めることが特徴です。

検査 X画像検査、生検
治療法 摘出搔爬術、開窓術(嚢胞を縮小させる方法)、顎骨切除術
当院では大学病院や総合病院に紹介しております

歯原性角化嚢胞
(keratocystic odontogenic tumour)

歯原性角化嚢胞(しげんせいかっかのうほう)は、嚢胞の壁が角化した薄い扁平上皮からなる嚢胞で、角化物で白色、灰白色のおから状の内容物を含んでいます。小さい場合は無症状ですが、大きくなると痛みなしに顎骨が膨張したり歯の移動をきたし、感染すると痛みを感じることがあります。上皮下に小さな娘細胞と呼ばれる細胞があり、摘出の取り残しが多くなる性質上、再発が多い腫瘍性疾患です。

X線画像検査では、単房性あるいは多房性の病変の境界がはっきりしており、歯根の外部吸収はまれです。性差は10~30歳代の男性にやや多く、下顎骨の下顎枝~大臼歯部に多くみられます。

検査 X画像検査、生検
治療法 摘出搔爬術、開窓術(嚢胞を縮小させる方法)
当院では大学病院や総合病院に紹介しております

石灰化嚢胞性歯原性腫瘍
(calcifying cystic odontogenic tumour)

石灰化嚢胞性歯原性腫瘍(せっかいかのうほうせいしげんせいしゅよう)は、痛みを伴わず顎骨が膨らんで(膨隆)いきます。大きくなると顎骨表面の骨(皮質骨)が菲薄皮します。上皮に幻影細胞(ghost cell)という細胞が出現しており、その石灰化をみるのが特徴です。

X線画像検査では、嚢胞は境界がはっきりしており、その中に埋伏歯、石灰化物、歯牙腫を含む場合が多いです。上顎前歯部や小臼歯部の顎骨に50%、下顎骨に50%の割合で発現し、10~30歳代に幅広くみられ性差はありません。

検査 X画像検査、生検
治療法 摘出搔爬術、開窓術(嚢胞を縮小させる方法)
当院では大学病院や総合病院に紹介しております

歯牙腫(odontoma)

歯牙腫は、エナメル上皮歯牙腫、集合性歯牙腫、複雑性歯牙腫の3つに分かれます。歯牙腫は歯原性腫瘍の中でも最も多く、薄い繊維性の袋(被膜)の中に、小さな歯牙様物を多数形成します。

X線検査で偶然発見されることが多く、埋伏歯の近傍に発生することが多いです。歯牙腫は、他の歯原性腫瘍や石灰化歯原性嚢胞性腫瘍に伴うことが報告されています。上顎前歯部に多くみられ歯の萌出障害、転位などをきたすことがありますが、症状がなく歯の萌出にも関わらない場合はそのままでも問題はありません。10~20歳代に多くみられ性差はありません。

検査 X画像検査、生検
治療法 摘出あるいは経過観察(当院で行えます)

骨形成線維腫
(ossifying fibroma)

骨形成線維腫は、顎骨内に種々の大きさ、形の骨様硬組織(骨のような硬い塊)の形成を伴う、線維性組織からなる良性腫瘍です。限局的に、痛みなしに顎骨が膨隆していき、進行すると歯の移動による咬合障害や顔面非対称となります。歯周靭帯に由来するものと考えられています。

X線画像検査では、病変と周囲骨との境界ははっきりしており、病変内部では透過像の中に、石灰化物の不透過性が混じる特徴を示します。下顎臼歯部の顎骨によくみられ、20~30歳代の女性に好発します。

検査 X画像検査、生検
治療法 小さいものだと摘出術、大きいものだと顎骨切除術
当院では大学病院や総合病院に紹介しております

セメント芽細胞腫(cementoblastoma)

セメント芽細胞腫は、セメント質様の硬い組織を形成する腫瘍で、歯の根のセメント質と連続する特徴を示します。下顎の大臼歯に多くみられ、30~60歳の女性に多く認められます。

X線検査では、歯根に連続する境界がハッキリしたX線不透過像の病変周囲に、X線透過像で囲まれている特徴を示します。

検査 X画像検査、生検
治療法 小さいものだと摘出術、大きいものだと摘出後の骨移植も検討

【3】歯の組織に由来しない
良性腫瘍(非歯原性腫瘍)

乳頭腫(papilloma)

  • 乳頭腫(papilloma)
  • 乳頭腫(papilloma)

乳頭腫とは、重曹扁平上皮細胞が外向性に過剰増殖してできるイボ状、カリフラワー状の白色または粘膜色の良性の腫瘍です。各年齢に発生し、性差はなく、口腔では舌と口蓋にできることが多く、歯肉、頬粘膜、口唇にもできます。数mmの大きさまでは速やかに増大しますが、その後の変化は示さず、多くは直径10mm以下の大きさです。

原因 慢性的な刺激による
ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトパピローマウイルス:HPV-2,4,6,7,10,40)の関与による
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検(組織検査)
治療法 腫瘤切除(当院で行えます)

線維腫(fibroma)

  • 線維腫(fibroma)
  • 線維腫(fibroma)

線維芽細胞とコラーゲン線維からなる限局性の線維性組織の腫瘍性増植物です。病変の境界が明瞭で半球形の小豆大から大豆大の腫瘤としてみられることが多いです。適合が悪い入れ歯を入れることによる慢性的な刺激で歯肉が増殖してしまうことがあり、これを義歯性線維腫と呼びます。女性に多くみられ、好発年齢は中年以降です。口腔粘膜のどこにでも発生しますが、機械的刺激を受けやすい舌の先端や頬粘膜に好発します。

原因 歯や義歯などによる慢性的な刺激や炎症による
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検(組織検査)
治療法 腫瘤切除(当院で行えます)

血管腫(hemangioma)

  • 血管腫(hemangioma)
  • 血管腫(hemangioma)

血管腫は、口腔領域の良性腫瘍で最も多くみられ、舌、頬粘膜、口唇に好発し、女性に多いです。表在性の病変は、暗赤色の軟らかく膨隆している圧縮性の腫瘤で、指で押すと退色するのが特徴で、X線写真では静脈石を認めることが多いです。急速に病変が大きくなることもあります。

原因 外傷などにより
検査 口腔内検査(視診、触診)、画像検査(X線、MRI)、生検(組織検査)
治療法 腫瘤切除、梱包療法、凍結外科療法、レーザー蒸散
腫瘤が小さい場合は当院で行えます
大きい場合は、大学病院や総合病院に紹介しております

外骨症(exostosis)

  • 外骨症(exostosis)
  • 外骨症(exostosis)

外骨症とは、骨表面から突出する反応性骨増殖または発育異常をいい、下顎隆起と口蓋隆起があります。下顎隆起は、下顎骨の小臼歯舌側面(下の歯の裏側面)を中心とした骨の隆起(盛りあがり)で一般に左右対称に生じます。形は広基性で単純なものから多発性結節状の隆起を示します。

口蓋隆起は、硬口蓋(うわあごの天井部分)正中に発生し、広基性で平滑な紡錘形ないし結節状あるいは分葉状を示します。どちらも正常粘膜で覆われておりますが、粘膜が薄いため食物などで破けやすく、びらんや潰瘍が生じやすいです。通常処置の必要はありませんが、義歯作製や発語の障害となる場合は切除の対象となります。

原因 局所の骨質の過剰発育により
検査 口腔内検査(視診、触診)
治療法 骨隆起切除術(当院で行えます)

薬物性歯肉増殖症
(drug-induced gingival overgrowth)

薬物性歯肉増殖症(drug-induced gingival overgrowth)

薬物性歯肉増殖症とは、降圧薬のカルシウム拮抗薬、免疫抑制薬、抗てんかん薬の服用によって生じる歯肉の線維性過形成症をいい、歯茎が大きく腫れる副作用(歯肉肥大)が生じます。上記薬物服用者の約50%に発症し、前歯部歯肉や上顎大臼歯部に初発しやすいです。

重度のものだと歯が見えなくなるまで腫れることもあります。歯肉肥大はプラーク(歯垢:歯の汚れ)が多いと重症化することが知られています。以前はかかりつけ医への対診で内服薬を変更してもらっていましたが、現在は口腔内清掃のみでも比較的寛解することも知られております。

代表的な薬剤名
カルシウム拮抗薬名 ニフェジピン、アダラート、アムロジン
免疫抑制薬名 シクロスポリン(サンディミュン、ネオラール)
抗てんかん薬名 フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)
原因 内服薬の副作用、口腔内清掃不良
検査 口腔内検査(視診、触診)
治療法 歯ブラシ指導、口腔内清掃、抗菌薬の服用、かかりつけ医への対診にて薬剤の変更の打診
大きく、治らない場合は歯肉切除術(当院で行えます)

エプーリス(epulis)

エプーリス(epulis)

エプーリスは、歯肉部に生じる良性の限局性腫瘤を総括したもので、炎症性または反応性の増殖物です。上顎前歯の歯間乳頭部の唇側に好発し、思春期の女性や妊婦に生じることが多いです。妊娠性エプーリスの場合は、出産後に消退、消失することがあります。

原因 歯肉への慢性的な刺激(不適合な被せ物など)や慢性炎症(歯肉炎や歯周病など)
女性ホルモンなどの内分泌異常
検査 口腔内検査(視診、触診)
治療法 腫瘤切除(当院で行えます)
再発を繰り返す場合、周囲の歯根膜や歯槽骨を搔爬や削合、場合によっては抜歯が必要なこともあります

膿原性肉芽腫
(pyogenic granuloma)

膿原性肉芽腫(pyogenic granuloma)

膿原性肉芽腫は、化膿性肉芽腫ともいい皮膚や口腔粘膜にできる腫瘤(できもの)です。病変の境界がはっきりしており(境界明瞭)、半球上の淡赤色の平滑な歯肉塊で、毛細血管が拡張して膨れているため比較的容易に出血するのが特徴です。大きさは数mmから数cmにわたり、急激に増大するため悪性(がん)との鑑別が重要となります。

好発部位は歯肉で、口唇、舌、頬粘膜にもできます。歯肉にできたものを肉芽種性エプーリスと呼びます。小児と若い女性に多くみられ、妊娠中にできることがありますが、出産後自然に消退・消失する場合もあります。

原因 歯肉への慢性的な刺激(不適合な被せ物など)や慢性炎症(歯肉炎や歯周病など)
女性ホルモンなどの内分泌異常
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検
治療法 腫瘤切除(当院で行えます)
再発を繰り返す場合、周囲の歯根膜や歯槽骨を搔爬や削合、場合によっては抜歯が必要なこともあります

【4】口腔がん(悪性腫瘍)

舌癌
(carcinoma of tongue)

  • 舌癌(carcinoma of tongue)
  • 舌癌(carcinoma of tongue)
  • 舌癌(carcinoma of tongue)
  • 舌癌(carcinoma of tongue)

舌癌は、口腔がんの約40%を占め、口腔がんの中で最も多いです。舌ではほとんどが側縁部(舌の横の部分)、舌下部に発生します。他の口腔がんに比べて平均年齢が低く、20~40歳代の低年齢層も罹患します。男女比は2:1と男性に多いです。

原因 不明だが化学的刺激(喫煙や飲酒などによるもの)、物理的刺激(虫歯や不適合な歯の詰め物などによるもの)、口腔清掃不良による
検査 口腔内検査(視診、触診)、細胞診、生検(組織検査)、血液検査
明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、検査をせずにすぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます
治療法 外科的切除、化学療法、放射線療法

歯肉癌
(carcinoma of gum)

歯肉癌(carcinoma of gum)

歯肉癌は、口腔がんのうち舌癌に次いで多く約30%を占めます。上顎より下顎の方が1.7倍多く認められ、臼歯部歯肉に好発します。増殖した腫瘍は、頬粘膜や口底や咀しゃく筋の隙間に浸潤するが、早期に直下の骨へと浸潤をきたすのが特徴です。一般的には、早期の症状はあまりなく、歯肉の腫脹や潰瘍形成などにより自覚する場合が多いです。

原因 不明だが化学的刺激(喫煙や飲酒などによるもの)、物理的刺激(虫歯や不適合な歯の詰め物などによるもの)、口腔清掃不良による
検査 口腔内検査(視診、触診)、X線検査、細胞診、生検(組織検査)、血液検査
明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、検査をせずにすぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます
治療法 外科的切除、化学療法、放射線療法

口底癌(carcinoma of floor of mouth)

  • 口底癌(carcinoma of floor of mouth)
  • 口底癌(carcinoma of floor of mouth)

口底癌は、口腔がんの約10%を占め、男女比は4:1と男性に多いとされています。口底部の潰瘍(深い組織の傷)と硬結(組織が固くなること)を自覚して気づくことが多いです。唾液腺で作られた唾液の管や排出口部に浸潤し、唾液の流出障害や顎下線の腫脹を伴うこともあります。舌、歯肉、下顎骨への浸潤も早く、舌の運動障害や嚥下障害も認められます。

原因 不明だが化学的刺激(喫煙や飲酒などによるもの)、物理的刺激(虫歯や不適合な歯の詰め物などによるもの)、口腔清掃不良による
検査 口腔内検査(視診、触診)、細胞診、生検(組織検査)、血液検査
明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、検査をせずにすぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます
治療法 外科的切除、化学療法、放射線療法

頬粘膜癌(carcinoma of buccal mucosa)

頬粘膜癌(carcinoma of buccal mucosa)

頬粘膜癌は、口腔がんの約10%を占め、一般的には50歳以上の高齢者に多く、やや男性に多いです。大臼歯部付近に好発します。内側への浸潤では上下顎歯肉や骨に、外側への浸潤では頬筋を貫いて顔面皮膚に及ぶこともあります。

原因 不明だが化学的刺激(喫煙や飲酒などによるもの)、物理的刺激(虫歯や不適合な歯の詰め物などによるもの)、口腔清掃不良による
検査 口腔内検査(視診、触診)、細胞診、生検(組織検査)、血液検査
明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、検査をせずにすぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます
治療法 外科的切除、化学療法、放射線療法

口唇癌
(carcinoma of lip)

口唇癌(carcinoma of lip)

上下の赤唇部に発生する口腔がん(悪性腫瘍)であり、粘膜部に発生したものは頬粘膜癌に分類されます。多くは下唇に多くでき、50~70歳代の男性に多くみられます。発育はゆっくりで転移も他の口腔がんに比べると遅いです。初期に潰瘍形成され、深い組織に浸潤する場合もあります。

原因 不明だが化学的刺激(喫煙や飲酒などによるもの)、物理的刺激(虫歯や不適合な歯の詰め物などによるもの)、口腔清掃不良による
検査 口腔内検査(視診、触診)、細胞診、生検(組織検査)、血液検査
明らかに悪性が疑わしい病変があった場合は、検査をせずにすぐに最寄りの大学病院、総合病院をご紹介させていただきます
治療法 外科的切除、化学療法、放射線療法

【5】顎骨部に発生する嚢胞

歯根嚢胞
(radicular cyst)

  • 歯根嚢胞(radicular cyst)
  • 歯根嚢胞(radicular cyst)
  • 歯根嚢胞(radicular cyst)

歯根嚢胞(しこんのうほう)とは、神経をとった後の歯(無髄歯)の歯の根の尖端部にできる嚢胞で、顎骨に生じる嚢胞の中で50~60%を占め最も多いとされています。

大きさは通常えんどう豆ほどの大きさですが、卵大まで大きくなることもあります。小さいものだと自覚症状はなく、大きくなると骨の膨隆や歯肉に触れるとポコポコへこむ感触(半皮紙様感)、波打つような感触(波動を触れる)が特徴的で、淡黄色のサラサラした(漿液性)内容液を含みます。

X線検査では、原因歯の根尖部に円形で境界がはっきりした単房性の透過像を示します。20~30代に多く、好発部位は上顎前歯部、下顎大臼歯部です。

原因 歯の神経が虫歯菌により感染して、それが歯の根の尖端にまで及ぶと根の周囲に炎症が起きます(歯根肉芽種)。それが長期間にわたり慢性化すると歯根嚢胞になります。
検査 口腔内検査(視診、触診)、X線検査、生検
治療法 嚢胞摘出術、歯根端切除術(当院で行えます)
病変が歯根の1/3以上を覆う場合は抜歯

含歯性嚢胞
(dentigerous cyst)

含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)は、顎骨に埋伏した歯の歯冠を含んで形成される嚢胞をいいます。顎骨に生じる嚢胞の10~20%を占めます。小さいものだと無症状ですが、大きくなると骨の膨隆や歯肉に触れるとポコポコへこむ感触(半皮紙様感)、波打つような感触(波動)が特徴的です。血清様の内容液を含みます。

好発部位は、下顎智歯部(親知らず)、上顎犬歯部に多く、いわゆる歯の交換期である7,8~15歳にX線検査で気づかれることが多いです。X線検査では、埋伏歯を含む境界明瞭な類円形の透過像を示します。

原因 歯が発生する組織の上皮が嚢胞化することによりできる
検査 口腔内検査(視診、触診)、X線検査、生検
治療法 抜歯を伴う嚢胞摘出術、開窓術(嚢胞を縮小させる方法)
(当院で行えます)

鼻口蓋管嚢胞
(nasopalatine duct cyst)

鼻口蓋管嚢胞(びこうがいかんのうほう)は、上顎の前歯の裏(口蓋側)にある鼻口蓋管(切歯管)の残存上皮に由来する嚢胞のことで、嚢胞が骨口蓋の内部や切歯管の部分にできたものを切歯管嚢胞、口蓋の粘膜下にできたものを口蓋乳頭嚢胞と呼びます。上顎前歯の裏側の腫れや痛みを伴うこともありますが、無症状で経過するものも多いです。

X線検査では、切歯管相当部に円形ないしハート型の透過像として認められます。大きさはほぼ10mm前後とされています。

原因 残存上皮が様々な原因により反応性に増殖して嚢胞化すると考えられています
検査 口腔内検査(視診、触診)、X線検査、生検
治療法 嚢胞摘出術
鼻口蓋管嚢胞の場合は、摘出後の出血のリスクがあるため大学病院や総合病院に紹介させていただきます
口蓋乳頭嚢胞の場合は、当院でも摘出可能です

単純性骨嚢胞
(simple bone cyst)

単純性骨嚢胞は、骨内に発生する裏装上皮がない嚢胞(偽嚢胞)で 嚢胞内は漿液で満たされています。無症状でX線検査により偶然発見されること場合が多く、比較的若年者の男性に多いです。発生部位は上顎より下顎に多く、前歯部、骨体部、下顎角部(エラの部分)の順にみられます。

X線検査では、歯の根のまわりの骨にまで嚢胞が入り込むため、波形の輪郭を示すのが特徴でホタテ貝状の透過像を示します。境界はやや不明瞭で不鮮明に認められます。

原因 ①外傷などにより、骨髄内血腫が生じ、凝血の器質化が障害され、液化して嚢胞様腔を生じる
②骨の局所的な形成発育異常による
③局所の静脈血流障害による
3つの原因が考えられています
検査 口腔内検査(視診、触診)、X線検査、生検
治療法 摘出術、掻爬、開窓術(嚢胞を縮小させる方法)
まれに自然消失もあります
(当院で行えます)

【6】軟部組織に発生する嚢胞

粘液嚢胞(mucocele)

粘液嚢胞は、唾液の流出障害により口腔粘膜にできる水ぶくれです。唾液が溜まってできる嚢胞なので、内容液は唾液となります。浅い位置にできたものは、透明感のある紫青色で、波打つ感触(波動を触れる)で、境界がはっきりしています。一方、深い位置にできたものは膨らみが軽度で、波動もあまり触れず、表面の色調も正常粘膜色です。

主に小唾液腺(口唇腺、頬腺、舌腺、口蓋腺、臼歯腺)に由来する嚢胞のことを指します。口腔領域に発生する軟組織嚢胞の中では最も多くみられます。自然消失することもあれば、再発も多いです。

原因 小唾液腺で作られた唾液の排出管(導管)損傷により唾液が貯留し、肉芽組織が増生することによります。小唾液腺の導管は細くて狭いため、口腔粘膜の誤咬や火傷による損傷で容易に詰まりやすいです。
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検
治療法 嚢胞摘出術、周囲の小唾液腺の除去(再発防止のため)
(当院で行えます)

ブランディンヌーン嚢胞
(Blandin-Nuhn cyst)

ブランディンヌーン嚢胞(Blandin-Nuhn cyst)

ブランディンヌーン嚢胞とは、小唾液腺の一つである前舌線の導管損傷によりできた舌先の水ぶくれのことで、発症部位によって呼称は変わりますが、粘液嚢胞を指します。

原因 小唾液腺で作られた唾液の排出管(導管)損傷により唾液が貯留し、肉芽組織が増生することによります。小唾液腺の導管は細くて狭いため、口腔粘膜の誤咬や火傷による損傷で容易に詰まりやすいです
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検
治療法 嚢胞摘出術、周囲の小唾液腺の除去(再発防止のため)
(当院で行えます)

ガマ腫(ranula)

ガマ腫は、カエルを意味するラテン語から名付けられた大唾液腺(主に舌下腺、顎下腺)の排出管(導管)に発生する唾液の貯留嚢胞です。粘液嚢胞と本質的には同じですが、直径数cmの青みがかかった透明感のあるドーム状の膨らみが特徴で、サイズが全く異なります。最初は片側性に出現しますが、大きくなると正中を越えて存在するようになることもあります。

嚢胞が口底にある顎舌骨筋という筋肉より上に存在するものを舌下型といいます。一方、顎舌骨筋の下にまで及ぶ嚢胞を顎下型(plunging ranula)といい、この場合は口底の膨らみはなく顎の下だけが膨らむのが特徴となります。

原因 小舌下腺管の一部が損傷され唾液が周囲組織に溢出することにより
導管の閉塞や奇形により
検査 口腔内検査(視診、触診)、MRI検査
治療法 小さいものは当院でも行えます
嚢胞摘出術、微小開窓法、OK-432(商品名:ピシバニール)注入療法
大きいものは大学病院や総合病院に紹介しております
開窓術、舌下腺を含めて嚢胞摘出術

歯肉嚢胞(gingival cyst)

一般に幼児にみられる歯肉嚢胞と成人にみられる歯肉嚢胞に分類されます。幼児にみられる歯肉嚢胞は、新生児から生後3ケ月くらいまでの歯槽堤粘膜に径1~3mm程度の白色の小腫瘤が上顎にみられることが多いです。歯が生えてきたら自然に消失します。

成人にみられる歯肉嚢胞は、犬歯から小臼歯にかけての頰側歯肉に、径10mm程の波打つような感触(波動を触れる)の膨らみ(膨隆)を認めます。無症状で正常粘膜色です。30~40代にみられることが多いです。

原因 幼児にみられる歯肉嚢胞:遺残上皮によるもの
成人にみられる歯肉嚢胞:歯堤、エナメル器、歯根膜の上皮遺残によるもの
検査 口腔内検査(視診、触診)、生検
治療法 幼児にみられる歯肉嚢胞:経過観察
成人にみられる歯肉嚢胞:摘出術
(当院で行えます)

監修者情報

福島 龍洋

渋谷青山デンタルクリニック
院長 福島 龍洋

近年、口腔がんの罹患率が増えて、死亡者数も増加傾向にあります。その中で、長年口腔外科に従事してきた経験を活かして、大学病院レベルの検査体制を導入しています。数多くの症例を「みたり」「触れて」きたからこそ出来る診療体制を整えています。